インタビュー

継続の秘訣は、企画に込めた想い。演奏家による自主企画コンサートの裏側 〜ムジカコスモス vol.04開催直前インタビュー〜(前編)

Text by 明日梨(@s2azurin

クラシック音楽のコンサートといえば、音楽事務所やコンサートホール、オーケストラ団体などが運営している演奏会を一般的によく目にするかもしれません。

しかし中には、そういった大きな母体に頼らない、演奏家自身による自主企画公演も数多く実施されています。

 

自主企画のコンサートを開催するためには、コンセプトやプログラム内容を考えるだけでなく、会場の手配や広報物の作成、チケットの管理など様々な事前準備から当日の運営まで、演奏以外の面でやらなければいけないことがたくさん。

それでも、「クラシック音楽という中身を、どうやって接点のない人々に向けて発信するか?」「敷居を下げるのではなく、バリアフリーにするにはどうすればいいのか?」という想いで活動している《ムジカコスモス》という音楽プロジェクトがあります。

3月7日(土)に開催予定のvol.04を控えた森下由貴さん加藤綾子さんに、ムジカコスモス誕生の経緯やコンセプト、自主公演への想いについて語っていただきました。

本記事では、その前編をお楽しみください。

 

※新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、本公演は開催延期となりました。詳細はこちらをご確認ください。(2020年3月5日時点)

《ムジカコスモス》インタビュー 前編

ヴァイオリン二重奏をもっと多くの人に知ってほしい

ーームジカコスモスとして、これまでに過去3回の公演を実施されていますね。そもそも、どうしてお二人で自主企画公演に取り組むことになったのでしょうか?

森下:きっかけは「即興演奏」だったかなと思います。もともと同じ先生に習っていたので顔は知っていて、私が大学院から加藤さんと同じ洗足学園に入ったことで改めて知り合いました。あるとき、私がやったことのなかった即興演奏に挑戦する機会をいただいたので、普段から即興演奏に取り組んでいる加藤さんを巻き込むことになりました。

加藤:もともとはお互いやっていることが全然違いましたが、あれが元祖ですね。2018年に開催したvol.01〜02ではプログラムの合間に即興演奏を入れたりしていました。

ムジカコスモス 初公演のフライヤー(Designed by Yuki Morishita)

 

ーーそうなんですね。即興演奏を交えながら、どのような意図でプログラムの構成を考えたのでしょうか?

加藤:最初は、お互いにソロも弾きたいし、二重奏もやりましょうということで始まりました。ヴァイオリン二重奏は日本で演奏される機会が少ないみたいだから、レパートリーを開拓しようという話になり、その中で、E.イザイ作曲「ヴァイオリン二重奏のためのソナタ(遺作)」というとんでもない大曲を見つけました。この曲を全楽章フルで届けるというのが一つの目標になった気がします。

森下:vol.01でこの作品を1楽章だけ演奏して、vol.02では別の楽章、vol.03で全楽章に取り組みました。せっかく全楽章に取り組むんだったら1回だけじゃもったいないということで、2日公演に挑戦してみたりして(笑)

加藤:集客が大変だって慌てたりしたよね(笑)

ムジカコスモス vol.03のフライヤー(Designed by Yuki Morishita)

 

加藤:イザイの「ヴァイオリン二重奏のためのソナタ(遺作)」はすごい曲なのでぜひ調べてみてほしいです。

森下聴きやすい曲で、クラシックを普段聴かないお客様からも反応がよかったですね。ヴァイオリン二重奏曲の中ではわりと有名な作品だと思います。ただ、とても難しいので、そんなに気軽に演奏できる曲ではなくて。

加藤そもそもヴァイオリン二重奏という演奏形態を聴ける機会が少ないのに加えて、曲目がマニアックな方向に走りがちなので、それをお客様に届けられるのか、受け入れてもらえるのかというのが毎回ハラハラしています

森下:ヴァイオリンは比較的有名で親しみやすい楽器ですよね。そのヴァイオリンによる二重奏という編成は取っ付きやすいはずなのに、あまり曲が知られていないし、演奏する人も少ないという現状があります。だから、私たちはそこに着目したら面白いんじゃないかという思惑もありますね。

 

ありきたりなコンサートではなく、「宇宙」をコンセプトとした音楽プロジェクト

ーームジカコスモスさんのロゴに埋め込まれている「2つのヴァイオリンによる音の宇宙」というコンセプトはどのようにして決まったのでしょうか?

加藤:ヴァイオリン二重奏と言っても、華麗な作品もあれば攻めまくる作品もあり、いろんな作曲家がいろんな書き方で曲を残しています。じゃあ、ヴァイオリン2本だけど多様な作品があるから「音の宇宙」かな、とか。そういうきっかけだったと思います。

また、vol.01から取り組んでいる作曲家のバルトークが「ミクロコスモス」という作品を書いているんですが、それいいね!となって、ただしそのままだと面白くないので「ムジカコスモス」になりました。

森下:イザイの作品に対して持ったイメージもありました。もともと即興演奏をやっていたこともあり、即興でどうなるかわからないというところにも「宇宙感」があるなということで。「普通のようで意外と知られていない編成」という後付けの意味も少しあるかもしれません。

加藤:企画を進めながら見えてきた部分もあるので面白いですね。

森下:例えば、普通のコンサートで「ヴァイオリン二重奏の夕べ」みたいなタイトルはたくさんあるかもしれませんが、そういうのはもうありふれていますよね。「ムジカコスモス」は団体名ではなく企画名なのですが、これがあることによって名前を覚えてもらいやすいかなというのはあります。

ムジカコスモス vol.03の様子

 

ーーつまり、「ムジカコスモス」を企画している森下さんと加藤さん、ということでしょうか。

加藤:そうですね。ホームページに使う文言も気をつけていて、グループ名ではなく「音楽プロジェクト」って言ったりして。

森下:難しいところですが、グループ名ではないですね。

 

継続の秘訣は、企画のコンセプトがはっきりしているから

ーーよくあるコンサートの枠組みに囚われるのではなく、「ムジカコスモス」という企画にいろんな実験の要素を入れているイメージでしょうか?

森下:例えば普通コンサートをやるときには「この曲をやろう」「このメンバーでやろう」という流れがこれまでは私も多かった気がします。

加藤:たしかに、私の体感でも自主企画の多くがそうだと思います。

森下:ただ、それだと長くは続かないなと思っていて。単発ではいろんな企画があっても、継続するのは難しい気がしています。ムジカコスモスは、コンセプトがはっきりしているからこそ続けられているかもしれません

加藤:ムジカコスモスは、単純にこの曲を演奏できてよかったというだけでなく、次に何をやろうかという話になれるからいいですね。

 

ムジカコスモスが、演奏家としてお互いの「場所」になれば

ーー今後ムジカコスモスとして目指していく展望のようなところはありますか?

森下:やっぱり「宇宙」ということで、可能性がまだまだあると思うので、未知の曲にも挑戦していきたいです。ヴァイオリン2本の良さをもっと知ってもらうために、なかなか演奏されない作品にも取り組んで、ヴァイオリン2本の演奏の可能性を広げていけるといいなと思っています

加藤:個人的には、お互いの、演奏家として一つの「場所」になればいいなと思っています。普段は全然違う活動をしているので、こういう場所があって、ネット上にもホームページを作っておけば、「今度こういうコンサートをやるんだけど」というきっかけで新しい繋がりが広がっていったりもしますし、実績としても出すことができるので

ムジカコスモス vol.03終演後

 

森下:デュオの企画だけどソロを弾いてもいいし、ゲストを呼んでもいいねという話をしたこともあります。予算の都合もあるので簡単にはいきませんが…いつかできたらいいなと。ヴァイオリン2本だからこそ、ピアノのない会場でもできるという強みはあります。楽器が小さくて持ち運びしやすいし、椅子がなくても演奏できるので可動域が広いというのも。

加藤:そのわりには、継続してヴァイオリン二重奏に取り組んでいる団体は少ない気がしますね。なので、ムジカコスモスを通じてこんなレパートリーもあるよということをアピールしていきたいです

 

自分たちだけでなく、作品そのものを知ってもらうためのYoutube活用

ーーvol.04に向けて、WebやSNSを活用した広報に力を入れてますよね。Youtubeチャンネルも開設されていたり。

加藤:そうなんです。ムジカコスモスのYoutubeでは、ヴァイオリン二重奏のレパートリーを広く知ってもらうために、私たちの演奏を公開しています。イザイやプロコフィエフなど、国際的にはすでにたくさん演奏されて動画も公開されていますが、日本では比較的少ないと思います。そういう状況なので、私たちも少しずつですが公開できればと思っています。例えば先日公開した、バルトーク作曲「44の二重奏曲」など。

 

ーーよい取り組みですね!ムジカコスモスさんの動画は一つ一つしっかり編集されていてクオリティが高い…!と思ったんですが、撮影や編集はどうされているんでしょうか?

加藤:基本的に私が一人でやっています。動画編集は終わりが見えなくて大変ですが…。2019年9月から私が海外に留学しているので、日本にいなくてもできるWebやSNSの活用を私が担当しているという理由もあります。もともと個人でブログやTwitterを積極的に使っていたので、そのノウハウから反省点を活かしつつ、ムジカコスモスを通して実験している部分もありますね。

森下:私は普段ほとんどSNSをやらないタイプなので、そこは加藤さん頼りです。今どき、プロオーケストラなどでもTwitterやfacebookで発信しているところが多いですよね。そういうのをやらないといけない時代なんだなとすごく感じています。

加藤:私はこれまで個人でSNSを活用していましたが、ムジカコスモスのようなプロジェクトだと逆にやりやすい部分もあります。個人だと、どうしてもその人自身の生の発信になってしまいますが、プロジェクトだとある種のフィルターがかかるので、純粋に「どういう風に魅せたいか」という方向に持っていける気がします

森下:たしかにそれもあるかもしれないですね。Youtubeアカウントについて、「自分たちの演奏を」というのもありますが、「まだまだYoutubeで公開されていないヴァイオリン二重奏の曲を広めたい」という目的があるので、誰かが検索したときに私たちの動画を通して知ってもらえたら嬉しいなと思います。

私たち自身も、「この曲をやろう」と思ったらとりあえずYoutubeで検索してしまいます。そこで、せっかくいい曲なのに「音源が出てこないから別の曲にしておこう」となってしまったらもったいないと思うんです。音源が出てきたら、「こんな良い曲なら楽譜を取り寄せてみようかな」となるかもしれないし、そうなったら嬉しいです。ヴァイオリン2本はあまりCDが発売されていないというのもありますね。

加藤:例えば、この間のムジカコスモスで演奏したクリスティアン・バッハの二重奏曲もそうですね。楽譜は出版されているのにYoutubeには全然音源がありません。面白い曲だと思うので、これをきっかけに演奏する人も聴く人も選択肢が増えたらいいなと思っています。

 

有名な作品だけでなく、隠れた名曲も多くの人に届けたい

ーーたしかに、私自身もアマチュアでオーケストラや室内楽での選曲の際、Youtubeで聴ける曲のみに選択肢が狭まってしまってレパートリーがなかなか広がらないことを感じています。

森下:やっぱり集客を考慮するとプログラムのすべてをマイナーな曲にするのは難しいので、私たちの公演にもメジャーな曲を組み込んでいますが、なるべく思考停止せず挑戦していきたいです。

加藤:やっぱり、「この作品は名前だけでも知っている」という実感があるとお客様に喜んでもらえるのかなと思ったりしますね。

森下:メジャーな曲をきっかけに入ってきてもらえたら嬉しいですが、せっかくなら隠れた名曲があることを知ってもらいたいです。そういう意味では、全く音楽を知らない人の方がむしろ入ってきやすいかもしれませんね。もしかしたら、ある程度知っている人の方が「その曲は知らないからいいや」という感じになってしまうかもしれません。

加藤:まずは私たちがその作品をいいと思わなければ伝えられませんが、いいと思った上で、それを伝えられるようになれたらと思います。

 


 

さて、 今回は森下さん、加藤さんからムジカコスモス誕生の経緯やコンセプト、今後の展望についてお話を伺いました。

次回お届けするインタビュー後編では、実際に自主企画公演を開催する上での困難や、運営・広報面で工夫している点などについてより深くお話を聞いていきます。どうぞお楽しみに♩

ムジカコスモス vol.04のお知らせ

今回インタビューさせていただいた森下さんと加藤さんによる音楽プロジェクト「ムジカコスモス vol.04」が2020年3月7日(土)に開催されます。

※新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、本公演は開催延期となりました。詳細はこちらをご確認ください。(2020年3月5日時点)

ムジカコスモス vol.04

【日時】
2020年3月7日(土)午後6時半開演(午後6時開場)

【会場】
小黒恵子童謡記念館(二子新地駅より徒歩11分)

【チケット】
¥2,000(当日券 +¥500) ※小学生以下入場無料

【プログラム】
ヴァインベルク: 2つのヴァイオリンのためのソナタ 作品69
M.Weinberg: Sonata for 2 violins Op.69
ルクレール: 2つのヴァイオリンのためのソナタ イ長調 作品3-2
J.m.Leclair: Sonata for 2 violins A-major Op.3-2
チャイコフスキー: バレエ組曲「くるみ割り人形」作品71aより
P.Tchaikovsky: From “The Nutcracker” Op.71a
バルトーク: 44の二重奏曲より
B.Bartok: From “44 Duos”

 

ムジカコスモス vol.04 第1弾PVはこちら。ぜひチェックしてみてください♪

今回お話を聞かせてくれた方

森下由貴さん
中部フィルハーモニー交響楽団ヴァイオリン奏者。2つのヴァイオリンによる音楽プロジェクト《ムジカコスモス》メンバー。
Twitter:@Yukinoviolin

 

加藤綾子さん
ヴァイオリニスト。2019年9月より、ベルギー・ナミュールの音楽院、IMEP修士課程に在籍。2つのヴァイオリンによる音楽プロジェクト《ムジカコスモス》メンバー。
Twitter:@akvnimp

ABOUT ME
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明日梨 / Azuri
asunone編集長。九州大学芸術工学部音響設計学科卒。同大学院修士課程、ホールマネジメントエンジニア育成プログラム修了。在学中、クラシックを中心とした音楽芸術・音楽文化の社会的価値や、音楽を通して実現する人と人との繋がりについて考えながら、アートマネジメントの実践と研究に取り組みました。卒業後はIT企業の広報として働きながら自由研究を続けています。