インタビュー

大変だけど、ここでしか得られないやりがいがある。演奏家による自主企画コンサートの裏側 〜ムジカコスモス vol.04開催直前インタビュー〜(後編)

Text by 明日梨(@s2azurin

前回の記事で紹介した、音楽プロジェクト《ムジカコスモス》に取り組む森下由貴さんと加藤綾子さん。

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今回お届けするインタビュー後編では、より具体的な運営や広報面の工夫と難しさについて、自主企画公演の舞台裏を語っていただきました。

※新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、本公演は開催延期となりました。詳細はこちらをご確認ください。(2020年3月5日時点)

《ムジカコスモス》インタビュー 後編

子ども連れのお客様も気軽に来てほしい

ーー前回、ヴァイオリン二重奏曲をもっと多くの人に届けるためのプログラム構成やYoutubeでの動画公開などについてお話をお伺いしました。演奏会に向けて、集客の面で工夫していることはありますか?

森下:そうですね。例えば、子ども連れのお客様にも気軽な気持ちで来てほしいという思いから、今回の公演は小学生以下を入場無料にしています

加藤:そこはかなり相談しましたね。まず最初に、公演日程を週末にしたいと思い、金〜日曜日のどの時間帯がいいのかを考えました。すると、会場の空き状況との兼ね合いもあり、vol.04は土曜日の18時半開演に決定。そこで、公演の前後にその会場の近辺でご飯が食べられるかを考えたり、子どものいる親御さんは子どもを連れてくるかなという想像を広げました。それならいっそのこと、小学生以下を入場無料にしたら親御さんも来やすいのではということで、最終的にそう決まりました。

特に今回はプログラムの中身がしっかりしていて、だからこそ子どもにも聴いてほしいという思いがあります。これまでの活動を通して私が感じたことですが、いわゆる初等教育向けにバッハやヴィヴァルディを聴かせるよりも、ショスタコーヴィチやプロコフィエフの室内楽曲を聴かせた方が、子どもたちが食いついてくれる様子を感じます。

森下:私たちの公演は子どもたちがメインターゲットではありませんが、聴きに来てくれた子が何かしらの面白さを感じてくれたら嬉しいですね。

加藤:もしヴァイオリンを習っている子だったら、二重奏の曲を聴いて「先生とあの曲をやりたい」と言ってくれたりしたら最高です

 

ーーそういえば、私は子どもの頃からピアノを習っていましたが、発表会やコンクールで同年代の演奏を聴くことはあっても本格的なプロの演奏を聴く機会はあまりなかった気がします。

森下:それは正直、プロのコンサートに親が子どもを連れて行くかという問題があると思います。親にとっては、子ども向けの公演ならともかく、本格的なコンサートに子どもを連れて行って2時間耐えられるのかという不安があるかもしれません。今回、私たちの公演では「小学生以下入場無料」にすることで、そのハードルが少しでも下がればいいなと思います。

加藤:私たちが小さい頃は、子どもに配慮した普通のコンサートってあまりなかった印象ですね。

森下:今は徐々に増えてきている感じがありますが…。

加藤:これからは、もっといろんな切り口で子どもを対象としたコンサートが増えたらいいなと思います。私たちも「小学生以下入場無料」にするのが初めてなのでどうなるかわかりませんが、まずはやってみないとですね。

 

電子チケットは便利?やはり紙のチケットも必要?

ーームジカコスモスはチケット販売の面でもインターネットを活用されていますよね。実際に電子チケットを取り入れてみて、どのような感触ですか?

加藤:前回のvol.03から電子チケットを導入してみました。お客様に「電子チケットです」と言ったときの反応としては、「へ〜、便利だね」と言われることもあれば「なにこれ?」って言われることもあり、正直まだ掴めないところではあります。

森下:やっぱり、クラシックのコンサートに来てくださる方は比較的年配の方が多くいらっしゃるので、そういう方たちがどのくらい電子チケットを使ってもらえるのかは未知数ですね。ただ、主催者側として確実に便利ではあります

加藤:前回の公演では、当日の朝に電子チケットを購入して来てくださった方もいましたね。

ムジカコスモス vol.04 電子チケット申し込み画面(https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/01232n10nybsj.html

 

ーー紙のチケットだと、直前に取り置きの対応が増えた場合など大変ですよね。

加藤:そうなんですよね。アナログの予約だと来るのか来ないのか結局わからなかったり、謎のドタキャンがあったり…。電子チケットだと、ちゃんと事前に買ってもらって、目に見えて売り上げが増えて行くことでモチベーションupにも繋がります。

森下電子チケットだと、私たちがお金の管理をしなくていいのも楽です。とはいえ、年配の方に限らず、「電子チケットはよくわからないから紙で買いたい」という方もいますし、現時点で全部電子化することはできませんね。クラシック音楽に限らず、他のジャンルのコンサートでも電子チケットはまだ一般的じゃないのかなと思います。これから普及する方向に変わっていくかもしれませんが。

加藤:今のところは両軸でやっていくのがいい感じがしていますね。少しずつ切り替えていければと思います。

 

広報もオンラインとオフラインの両軸で

ーー次に広報面について聞かせてください。チケットのように、広報もオンラインとオフラインの両軸でされていますか?

森下:やっぱり、チケットを紙で買いたいという方がいるように、紙のチラシを渡すことに効果がある方もいるので紙のチラシも作成しています。今回のチラシがこちら。

ムジカコスモス vol.04 フライヤー(designed by Yuki Morishita)

 

ーーこの素敵なデザインは森下さんが?

森下:そうですね。

加藤:いつも頼りにしています。

 

ーー紙のデザインは森下さん、WebやSNSは加藤さんということで、お二人の得意分野を活かし合っているんですね。

森下:そうですね。今回のチラシのデザインは、この写真をベースに作成しました。凝ったデザインと言うよりも、なるべく写真が映えるようにと考えながら。そういえば、ムジカコスモスのロゴは完全に手作りですね。

加藤:vol.03からは、ロゴの中に「2つのヴァイオリンによる音の宇宙」というサブタイトルを入れたらどうかと思いつき、森下さんにバージョンアップしていただきました。

 

ムジカコスモスのロゴ(designed by Yuki Morishita)

 

森下:そうしてみたら、結果的によかったですね。チラシ全体のデザインについて工夫した点で言うと、今回は4回目なので「ムジカコスモス」のロゴが多少隠れても大丈夫かなと思い、このバランスになりました。

加藤:また、森下さんの提案により、今回のチラシは正方形のデザインで印刷しました。

森下:クラシック音楽のコンサートでは、チラシラックに置くことを考えるとA4サイズが主流でしたが、最近はWebで宣伝することも多いですし、従来の形に囚われるよりも、実際に手に取ってもらったときに「正方形なんだ!」っていう驚きがあったら面白いかな、と思って正方形にしてみました。

 

ーーたしかに、紙のチラシだと縦のデザインが主流ですが、Webに載せる場合は横の方が便利だったり、媒体によってちょうど良い比率に対応させるのも難しいですよね。

加藤:そうなんですよね。いろんな比率に合わせて勝手にデザインを組み替えてくれるツールがあったら嬉しいです(笑)

森下:先日、知人にデザインを依頼された際は、縦と横の両方を作りました。まだまだチラシラックに置いたりプログラムに挟み込んだりということも多いですが、実際、それらを見てきてくれる人とインターネットを見てきてくれる人とどっちが多いのかはまだなんとも言えない状況です。

加藤:ムジカコスモスだと、やっぱりまだ紙のチラシを見て来てくださる方が多い印象ですかね。インターネット上の情報を見て来てくださる方は、固定客が多いと思います。ネットの活用は長い目で見ないといけませんね

 

音楽家や音楽団体は自分たちでSNSを活用すべき?

ーームジカコスモスの世界観を表現しているホームページやSNS、Youtubeの動画など、どういうときにアイデアが出てくるのでしょうか?

加藤:私はもともとそういうのが好きなので、趣味の延長でやっている感覚です。アイデアは、だいたい練習しているときに思いつきます。例えば、次回のムジカコスモスでやる曲を練習しているときに、この曲にこういう動画をつけたらいいんじゃないかとひらめいたり…!

森下自分で弾いてて、演奏しているからこそ思いつくイメージってあると思いますね。例えば私たちの動画編集を別の方にお願いすることもできなくはないですが、それよりも自分たちでやったほうが、曲のイメージも理解してますし、見てほしいところにフォーカスできたりしますし。

加藤:SNSなども、それを見た人に「ムジカコスモスってどういう企画なの?」と興味を持ってもらうことを考えると、今の段階ではやはり、演奏者が自分でやる方がしっくりくるものができるかなと思います。

ムジカコスモス vol.04 PV

 

森下:私がチラシを自分で作るのも、誰かにお願いするよりも自分でやったほうがコンセプトを伝えやすいというのが大きいかもしれません。

加藤:せっかくだったら、コンサートの中身に合わせて、いろんな手段で世界観を表現できたらいいなと思います。

森下:Youtubeも、動画を見てくれることで、このコンサートがどういう雰囲気なんだろうっていう期待感を高めてきてくれたらいいなと思います。

加藤:ただ、ラッキーなことに私たちは2人でそれぞれの得意分野を分担できていますが、やっぱり発信用のコンテンツを作るのは大変ですね。学校などで習えるようになればいいのかもしれませんが、「なんでもできないと音楽家として生き残れない」というのも違う気がしています。

 

自主企画ならではの楽しさと難しさ

ーー森下さんはプロオーケストラにも所属されていますよね。オーケストラのような楽団の公演と、ムジカコスモスのような自主企画公演とで違う部分についてお聞かせいただけますか?

森下:楽団の中にいると、基本的にその楽団の方針がある中で活動することになりますが、自主企画公演だと、例えばデザインや衣装まで自分の好きなようにできるのが楽しいですね。それもある種の自己表現といいますか。最近はそういう音楽家が増えている気がします。ものすごく有名なオーケストラに入っている方がロックのコンサートをされているというのも聞いたことがありますね。

昔は、クラシックの音楽家で「ポップスをやっています」なんて言いにくい雰囲気だったと聞くのですが、今は、好きなことを好きなようにやって喜んでくれるお客様もいるのが嬉しいです。

加藤:私たちのムジカコスモスはジャンルとしてはクラシックですが、かっこいい写真を撮ってみたり、衣装にこだわってみたりというのを自分たちの好きなようにできるのが楽しいです。私自身、オーケストラの仕事なども好きですが、自分たちで考えて作る自主企画公演は特にやりがいが大きいですね。

ムジカコスモス vol.03 終演後の様子

 

森下:ただ、自主企画公演では収益が出るかというのが大きな問題です。収益が出ないために長続きしないという方もいると思います。逆に、自主企画はプラスマイナスがゼロになればいいと言って割り切っている方もいますが、できれば収益を得られる工夫をしたいですね。

加藤:やはり、収益が出るか出ないかは継続性にかなり関係しますね。クラシック音楽業界では「黒字にならないのは当たり前」「赤字にならなければ上々」という価値観もあるのかもしれませんが…。

近年は、フリーランスで活動している音楽家の稼ぎ方が変わってきている気がします。世の中的にも、様々な働き方やお金を稼ぐ手段が増えているので。そういった多様な手段の中で、実はこれから一番伸びていく可能性があるのは自主企画かもしれないのでは?と考えています。それぞれの音楽家がいろんな切り口のコンサートを企画していったら面白くなるのではないか、まだまだ未開拓の領域なのでは、と。もちろん、自主企画公演では全部自分たちでやらないといけないので物理的に大変な面もありますが、そういう意味でもムジカコスモスでいろんなことを試していけたらと思っています。

森下:ムジカコスモスは実験の場という感じですかね。

加藤:選曲もそうですし、チケットや広報面なども、いろんなことを試していきたいです。そして、こういった取り組みが他の演奏家の目にも触れるといいなと思います。なかなか、演奏家同士だとお互いのコンサートに足を運ぶのが時間的に難しい面もありますが、企画を通して得ることができた発見やノウハウも共有していきたいです。

 

さまざまな場の経験を通して、演奏家としても成長していける

ーー近年、一般企業で副業解禁の流れなどがありますが、音楽家の場合はオーケストラに所属しながら自主企画公演をしたりレッスンをしたり、そういった多様な働き方がすでに普通ですよね。

森下:そうですね。私自身も人に教えることが自分の演奏のためになると感じることが多いですし、いろんなところでいろんなことをやることが別の場所で活きています。もちろん、一つのことに集中される方もいて、それはそれでいいと思いますが。

私の場合、オーケストラで演奏するのと室内楽で演奏するのとでも全然違うと感じますし、自主企画をしなければソロの機会が減っていくのが怖いというのもあります。ある意味、自主企画公演を開催するのは自分のためでもありますね。

加藤:だからこそ、収益が伴わなくても自分のためにできれば良いという方もいるのかもしれません。ただ、もちろんお客様はお金を払ってきてくれていますし、発表会のような感じは出ないように気をつけたいなと思います。…なんだか、話していると自分たちで自分たちのハードルを上げている感じがしますね(笑)

森下:本音を言うと、自主企画では自分たちで何から何まで全部やるのが大変なので、演奏に集中したいと思うことはあります。

私が通っていた大学院では、コンサートの企画を実践しながら学ぶためのリサイタルシリーズがありました。会場は指定されていましたが、チラシやプログラム、タイトルなどを自分たちで考えたのは良い経験でした。

加藤:音楽家のためのSNS講座みたいなのもやっていた気がします。洗足学園にはクラシック以外のジャンルの学生もいたので、その影響も大きかったかもしれません。

森下:あまり各ジャンルへの偏見がなく、なんでもやれる雰囲気でよかったですね。

加藤:ただ、マネジメント系の勉強をもっとできればよかったなと思います。

森下:最近はアートマネジメント専門のコースが設置されている大学もありますが、演奏家自身がマネジメントを学べる場が必要だと思っています。

加藤:今、留学先の大学でマーケティングと法律を学んでいますが、こういうことを日本でも学びたかったですね。音楽家の社会的な立場などもしっかり勉強しておけばよかったなと今になって思います。

森下:音楽家が生きていくための法律とか税金とか…。

加藤:今はみんな、そういったことを独学で学んでいる状況ですよね。そういう情報をもっと知りたいです。

 

ムジカコスモス vol.04開催に向けて

ーー最後に、ムジカコスモス vol.04開催に向けた意気込みやアピールポイントをお願いします!

森下今回の一番の見どころは、まだ演奏される機会の少ないヴァインベルグ作曲「2つのヴァイオリンのためのソナタ」をメインに取り上げたところですね。

加藤:この作品はすごい音世界です。楽譜を見て、正直「これってどうやって弾くの?」と思わされる部分が多くあります(笑)ヴァインベルグは日本ではあまり知られていませんが、昨年生誕100周年を迎えた作曲家で、ヴァイオリン二重奏以外にも、ヴァイオリンのためのソナタや弦楽四重奏などいろいろな曲を書いています。どれもかっこよく、中身がぎゅっと詰まっていて構成もしっかりしている作品です。まさに隠れた名作曲家の、さらに隠れた名曲をぜひ聴いていただきたいです。ここでしか聴いていただけないんじゃないかなと思いますので、ぜひお越しください!

 


 

以上、ムジカコスモスの森下さん、加藤さんのインタビューを前編・後編にわたってお届けしました。「2つのヴァイオリンによる音の宇宙」というコンセプトに向かって、共通の想いを持ちながらそれぞれの得意分野を活かして自主企画公演に取り組むお二人。その裏側について、筆者自身も大変興味深く聞かせていただきました。

実は加藤さんがベルギーに留学中ということもあり、今回のインタビューはSkypeで実施させていただきました!そのときの画面ショットがこちら。

左上:加藤さん、左下:明日梨、右:森下さん

 

asunoneでは、ムジカコスモスのお二人のように独自の想いを持って活動している音楽関係者のインタビューを今後も実施していきたいと考えております。

興味のある方はお気軽にお問い合わせください♩

ムジカコスモス vol.04のお知らせ

今回インタビューさせていただいた森下さんと加藤さんによる音楽プロジェクト「ムジカコスモス vol.04」が2020年3月7日(土)に開催されます。

※新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、本公演は開催延期となりました。詳細はこちらをご確認ください。(2020年3月5日時点)

ムジカコスモス vol.04

【日時】
2020年3月7日(土)午後6時半開演(午後6時開場)

【会場】
小黒恵子童謡記念館(二子新地駅より徒歩11分)

【チケット】
¥2,000(当日券 +¥500) ※小学生以下入場無料

【プログラム】
ヴァインベルク: 2つのヴァイオリンのためのソナタ 作品69
M.Weinberg: Sonata for 2 violins Op.69
ルクレール: 2つのヴァイオリンのためのソナタ イ長調 作品3-2
J.m.Leclair: Sonata for 2 violins A-major Op.3-2
チャイコフスキー: バレエ組曲「くるみ割り人形」作品71aより
P.Tchaikovsky: From “The Nutcracker” Op.71a
バルトーク: 44の二重奏曲より
B.Bartok: From “44 Duos”

 

ムジカコスモス vol.04 第2弾PVはこちら。ぜひチェックしてみてください♪

今回お話を聞かせてくれた方

森下由貴さん
中部フィルハーモニー交響楽団ヴァイオリン奏者。2つのヴァイオリンによる音楽プロジェクト《ムジカコスモス》メンバー。
Twitter:@Yukinoviolin

 

加藤綾子さん
ヴァイオリニスト。2019年9月より、ベルギー・ナミュールの音楽院、IMEP修士課程に在籍。2つのヴァイオリンによる音楽プロジェクト《ムジカコスモス》メンバー。
Twitter:@akvnimp

ABOUT ME
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明日梨 / Azuri
asunone編集長。九州大学芸術工学部音響設計学科卒。同大学院修士課程、ホールマネジメントエンジニア育成プログラム修了。在学中、クラシックを中心とした音楽芸術・音楽文化の社会的価値や、音楽を通して実現する人と人との繋がりについて考えながら、アートマネジメントの実践と研究に取り組む。2018年に東京都内のIT企業へ新卒入社し、広報や自社サイトの制作・運用など幅広い業務に携わる。