現場レポート

地域のボランティアを中心に、たくさんの想いが重なり、広がる。「第29回荻窪音楽祭」参加レポート

Text by 明日梨(@s2azurin

東京に住み始めてから、クラシック音楽にまつわる音楽祭やフェスティバルの噂を聞くことが多くなったような気がします。

一番有名なのは、GWに丸の内などで開催されているラ・フォル・ジュルネでしょうか。

 

日本各地で開催されている大小様々なクラシック音楽のお祭り。

今週末には、第32回となる荻窪音楽祭が東京都杉並区で開催されています。

 

3年前、私はこの荻窪音楽祭に当日ボランティアとして参加させていただきました。最終日の1日限りでしたが、小学生〜高校生とプロの音楽家が一緒に演奏しているコンサートの様子や、運営に携わる方々とのお話が今でも深く心に残っています。

そこで、当時の私が書いたレポートより抜粋・修正して本記事をお届けします。ぜひ最後までお読みいただき、今週末は荻窪音楽祭へお出かけください♩

荻窪音楽祭とは

この音楽祭は、荻窪の街づくりの一環として、地域のボランティアの手で2000年から開催されています。私が参加した第29回荻窪音楽祭では、2016年11月10日(木)〜13日(日)の4日間、荻窪にある29会場で、クラシックの演奏を聴くことができる公演が75本も用意されていました。

そのうち、私は、最終日の杉並公会堂で開催された「みらい夢チャリティーコンサート」と「フレッシュジュニアコンサート」に参加しました。

地方から遠征してまで、この音楽祭に参加した理由

当時の私は福岡に住んでいる大学院生でした。しかし、何故わざわざ東京で開催されるこの音楽祭へ足を運んだかというと、前の月に参加した日本フィルハーモニー交響楽団事務局のインターンにて、荻窪音楽祭事務局と日本フィル担当者との打ち合わせやリハーサルの様子を見学させていただいたことがきっかけです。

音楽祭の中心的な企画である「みらい夢チャリティーコンサート」と「フレッシュジュニアコンサート」には、杉並区を拠点に活動している日本フィルが深く関わっています。荻窪の地域の方はもちろん、日本フィルの事務局やコンサートに出演する楽員の方々がそれぞれの立場から熱心に音楽祭を作り上げている様子に驚き、当日の様子が気になって仕方ありませんでした。

福島・北海道・杉並区の中学生と日本フィルの楽員による「みらい夢チャリティコンサート」

当日の朝、荻窪に来てまず目に入ったのが、道路脇のポールに掲げられているいくつもの音楽祭の旗です。荻窪の街と音楽祭が一体となっているように感じて、わくわくしながら杉並公会堂へ。到着すると、みらい夢コンサートのリハーサルが行われいるところでした。

子どもたちによる熱の込もったコンサートの様子

このコンサートでは、杉並区と災害時相互援助協定を結んでいる福島県南相馬市から原町第一中学校の吹奏楽部を呼び、荻窪の小中学生と同じステージで演奏します。前半は参加しているそれぞれの学校による演奏。もともと吹奏楽の名門校であったという原町第一中学校は、東日本大震災の被害を受けて大幅に生徒が減り、吹奏楽部員も21名にまで落ち込んだそうです。しかし、先生と生徒たちの熱い想いで活動を続け、今回は入学して7ヶ月の1年生も含めた44人でアルプス交響曲を演奏。中学生とは思えない素晴らしい演奏でした。

後半は、原町第一中学校と、杉並区の天沼中学校、北海道からきた名寄中学校の吹奏楽部員による合同演奏でした。日本フィルの楽員も数名加わり、指揮は海老原光さん。このようにプロの音楽家たちを呼んでの合同演奏について音楽祭事務局の方にお話を聞くと、参加している子どもたちに、コンクールではない場で、“本物の”音楽に触れてほしいという想いがあるそうです。また、吹奏楽オリジナル曲だけでなくオーケストラの曲をプログラムへ入れたりという工夫も。

震災の影響が残る福島の子どもたち

原町第一中学校の保護者の方々から、本来なら福島から東京までバスで3時間程度で来れる距離なのに、原発を避けるために迂回したため5時間以上かけて音楽祭の会場へ来たと聞きました。また、東日本大震災の直後から被災地へ通い続けている日本フィルの方から、震災が与えた、見えない部分での子どもたちへの影響についてお話を聞きました。

5年半が経っても、重く残っている震災の爪痕。ニュースでは教えてくれない生の声を聞いて、福島の現実を知ることができました。

原町第一中学校の3年生にとって、この荻窪音楽祭が引退前の最後のステージで、演奏後に多くの子たちが舞台袖で号泣していました。彼らにとって、毎年の荻窪音楽祭のステージは吹奏楽コンクール以上に思い入れがあるとのこと。こういった機会の大切さや、みんなが南相馬から荻窪に来て演奏するためにいろんな人の協力があるということを吹奏楽部員に向けて話す先生と、涙ながらに頷く子どもたち。荻窪音楽祭への出演は、数ある演奏機会の一つでなく、とても意味のある舞台となっているようです。

コンサートの裏にある数々の仕掛け

原町第一中学校の保護者の方々は、私たちが日本フィルのファンになっちゃったから、今度は部活を引退した3年生を連れて日本フィルの定期演奏会を聴きに来たいなんていうお話もしていました。街づくりの一環としてクラシック音楽に注目し、荻窪音楽祭を開催している杉並区に、南相馬市との協定があり、震災後に被災地へ通い続けている日本フィルがいて。さまざまな背景が重なって成り立っているこのコンサートが、この場かぎりではなく、新しいきっかけを生む場になっているんですね。

音楽祭実行委員の方によると、原町第一中学校を東京に呼ぶことで東京の人に南相馬のことを思い出してもらうだけでなく、荻窪の小中学校と合同のコンサートにすることでその父兄による集客を見込むという戦略もあるそうです。また、入場無料であるものの、計画的に整理券を配布していたり、至るところまで考え込まれたコンサートでした。

選抜された子どもたちと日本フィルの楽員による「フレッシュジュニア・コンサート」

みらい夢コンサートが終わると、ステージに所狭しと並べられていた椅子と打楽器が片付けられ、雛壇をバラし、終演から1時間もしないうちにフレッシュジュニア・コンサートが開場しました。

教えるのではなく問いかける。子どもたちに本気で向き合うリハーサルの様子

このコンサートでは、選考で選ばれた小学生〜高校生が日本フィルの楽員と一緒に室内楽の演奏をします。日本フィルのインターン期間中にリハーサルの様子を見学させてもらっていたのですが、その様子がとても印象的でした。

日本フィルの楽員は、他の人の音を聴くことや、呼吸を合わせることなどについて話しながら、子どもたちにただ教えるのではなく、一緒に曲を作っていくためにどう弾けばいいかというのを問いかけながら練習を進めていました。相手が子どもだからというのではなく、一緒に演奏するメンバーとして熱心に向き合う楽員の方々と、これまでは主にソロ奏者としてのレッスンを受けてきた子どもたちが、次第に日本フィルの楽員と一緒にアンサンブルを創っていく様子を間近で見ながら感動しました。

活き活きと演奏している本番の様子

楽しみにしていた本番の演奏も、ひとりひとりがリハーサルのときよりレベルアップしていて素晴らしかったです。特に、小学3年生の小さなヴァイオリニストとピアニストが日本フィルメンバーと顔を見合わせながら楽しそうに弾いている姿を見て、聴いていた私も楽しくなりました。それぞれの演奏の際に、一緒に参加した日本フィルの楽員さんが子どもたちの特徴やどんなところが成長したかなどをステージで話していたのも心温まる時間でした。

すべての演奏後に表彰式がありましたが、コンサート発案の際に、コンクールのように順位をつける企画にはしないことを意識したそうです。また、全員にプロを目指してほしいわけではなく、音楽を通じて、この音楽祭での経験を通じて人生を豊かにしてほしいという想いが込められています。出演した子どもたちの、今後のさらなる成長が楽しみですね。

おわりに

日本フィルのインターン時に、荻窪では、芸術とは何か、芸術で何ができるのか、何のためにやるのかという本質を市民がしっかり捉えた上でこの音楽祭をやっていると聞いていましたが、実際の様子を見て納得しました。

私が今回参加できたのは2つのコンサートのみでしたが、パンフレットを見ると、4日間に、29の会場で75本ものコンサートが開催されていました。これだけの規模で、一つ一つ企画に熱量があり、公式サイトや広報物のメッセージにも荻窪の街や音楽に対する想いが溢れています。

心をこめた演奏が心のふれあいを広め
きっと住み良い街にしてくれる

荻窪の街を住んでみたい街、住んでいて良かった街、これからも住みつづけたい街、そんな心豊かに暮らせる街にしたいとの思いから街づくりの一つとして「荻窪音楽祭」がスタートして30回目を迎えます。スムーズに南北が行き来できるようにバリアフリー化を目指し、若者や高齢者も快適に過ごせ、子供達が明るく元気に育って行ける街づくり。この荻窪の地に住んでいることが、私達のささやかな誇りとなるような街づくりへの、皆様のご理解、ご協力をいただけましたら幸いです。

荻窪音楽祭 公式サイト(http://ongakusai.com/aboutus.html)より

 

音楽祭のテーマにもありますが、私はまさに、荻窪の街が住んでみたい街になったひとりです♩

これからも荻窪音楽祭に関わるみなさんを応援しています。

第32回 荻窪音楽祭のお知らせ

今年の荻窪音楽祭は、今日から4日間、2019年11月7日(木)〜10日(日)です!私も土日の2日間に足を運びます。

特に気になるのが、9日(土)の荻窪ユース・アンサンブルコンサート。これまでフレッシュ・ジュニアコンサートに出演した子どもたちが中心となって演奏するそうです。

ぜひ一緒に、荻窪の街で音楽を楽しみましょう♩

荻窪音楽祭公式サイトはこちら

ABOUT ME
明日梨 / Azuri
asunone編集長。1993年生まれ長崎・佐世保育ち。九州大学芸術工学部音響設計学科卒。同大学院修士課程、ホールマネジメントエンジニア育成プログラム修了。在学中、複数の学生オーケストラと吹奏楽団の運営を掛け持ちながら、九州大学とアクロス福岡の共同による「ミュージック☆ファクトリー」での実験的なコンサート企画・制作、新しいアンサンブル団体の創設、アウトリーチ活動などに取り組む。音楽芸術・音楽文化と現代社会との理想的な関わりかたについて思いを巡らせた結果、ITビジネスを通じて社会を知るため都内のIT企業へ新卒入社。現在、企業広報として精力的に働きながら、音楽を学び直したりWeb制作スキルを磨いたりしています。