研究ノート

開催すればするほど赤字になる?!オーケストラのビジネスモデル

Text by 明日梨(@s2azurin

クラシック音楽は、作品によっていろいろな編成で演奏されます。

例えば、ピアニストやヴァイオリニストが一人で演奏する独奏や、数人の奏者が集まって演奏する室内楽。そして、一番大きな演奏形態がオーケストラ(管弦楽)といえるでしょう。

18世紀のヨーロッパで誕生し、宮廷で貴族のために演奏していたオーケストラは、やがて市民に向けて演奏会を開くようになりました。

その文化は明治維新後の日本にも伝わり、現在では1000以上のオーケストラ団体が全国各地で活動しています。

 

オーケストラの演奏の様子

そんなオーケストラ団体の中でも、NHK交響楽団や日本フィルハーモニー交響楽団など、日本オーケストラ連盟に所属しているプロフェッショナル・オーケストラが25団体(2018年11月現在、準会員を含めると34団体)あります。

 

オーケストラ連盟の正会員となるには下記の条件があるように、プロフェッショナル・オーケストラは非営利の法人格を持ち、メンバー(楽団員)には固定給与が支払われ、マネジメントを担当する事務局組織が存在します。

団体の法人格が公益財団法人、公益社団法人、特例民法法人又は一般財団法人、一般社団法人、認定特定非営利活動法人、特定非営利活動法人あるいは学校法人であり、以下の基準を充たすプロフェッショナル・オーケストラを有するもの。

①プロフェッショナル・オーケストラとしての演奏活動実績が2年以上あり、年間5回以上の定期演奏会をはじめ自主公演を10回以上行っていること。

②固定給与を支給しているメンバーによる2管編成以上のプロフェッショナル・オーケストラであること。

③運営する主体として楽譜担当、舞台担当を含む事務局組織を持っているプロフェッショナル・オーケストラであること。

日本オーケストラ連盟 会員の入会・退会及び会費等に関する規程 第2条より(http://www.orchestra.or.jp/about/teikan/

 

クララ
クララ
プロオーケストラの楽団員は、オーケストラで演奏することを生業としているんだね!

今回は、そんなプロオーケストラのビジネスモデルを探ってみましょう。

オーケストラのビジネスモデル

ビジネスモデルといえば、先日出版された『ビジネスモデル2.0図鑑』が話題となりました。

 

スタートアップから大企業まで、革新的な100のビジネスモデルが掲載されており、Amazonや各書店のランキングで上位を獲得。発売から1ヶ月で4刷の重版が決定したそうです(参考:#ビジモ図鑑)。

 

そこで今回、こちらの本を参考にオーケストラのビジネスモデルを図解してみました。

オーケストラのビジネスモデル図解(ビジネスモデル図解ツールキットを使用して作成)

 

オーケストラの活動の軸となっているのは、定期演奏会などの主催公演

2016年の実績によると、一番少ないオーケストラで18回、多いオーケストラでは100回以上の主催公演を開催しています。

 

オーケストラのような生の舞台公演では、ステージ上で演者がパフォーマンスを行い、来場者のチケット総額を売上として得るのが基本的な仕組みだと思います。

しかし、そこでオーケストラには重大な問題が。

冒頭の写真のように、オーケストラの公演にはたくさんの演奏者を必要とするため、チケット代のみで賄うことができない膨大な費用がかかるのです。

 

オーケストラが演奏会を開催するための費用を見積もると、楽団員だけでなく事務局の人件費はもちろん、演奏会ごとに呼ばれる指揮者やソリスト、エキストラの出演料、演奏会場であるホールの利用料、広報宣伝費、その他雑費を合わせると、1公演あたり約2,000万円の費用がかかることもあります。

一方、コンサートホールの客席数は1,000〜2,000席程度。たとえ満席になったとしても、1,000席のホールだったらチケット価格を2万円、2,000席のホールだったら1万円に設定しなければいけません。

しかし、そんなに高いチケットでは買ってもらえないので、通常のコンサートでは3,000円〜8,000円程度に設定されています。

ということは、演奏会を開催すればするほど赤字になってしまうのです。

 

そんな赤字を補填するために、外部の主催者に公演を丸ごと買ってもらう依頼公演や、行政からの助成金、スポンサーからの寄付金などによって、オーケストラはなんとか収支を成り立たせている現状です。

ちなみに、公益法人のオーケストラに企業や個人が寄付をすると、税制優遇制度を利用することができます(詳しくは各オーケストラのホームページへ)。

オーケストラが生き残っていくために

このようなビジネスモデルであることから、事務局員は主催公演の企画制作のみに集中することが難しく、依頼公演の営業や寄付金の獲得に奔走していることと思います。

はたして、それだけで良いのでしょうか?

 

オーケストラの活動は、営利を目的としていません。とはいえ、依頼公演や寄付などの外的要因に頼っていては、その金額を増やすことができても根本的な経営改善にはならないでしょう。

もちろん、演奏会のチケットを売る努力も欠かせません。1つでも多くの席が埋まることは、収入が増えるだけでなく、楽団員のモチベーションや客席の熱気にも繋がるはずです。

 

現在のビジネスモデルにおける問題点の一つは、ファンからオーケストラにお金を落とすための主な窓口がチケットの購入と寄付に限られていることだと考えます。

どんなに熱心なファンでも、毎回の演奏会へ足を運ぶ以上の応援がしたくてもできない現状

 

読売交響楽団の『オーケストラ解体新書』に掲載されている対談にて、昭和音楽大学教授の石田麻子さんも「演奏会のチケット以外に何かお客様に買っていただくものはないか、考えていきましょうよ」と述べています。

細々とCDやグッズを販売しているオーケストラもありますが、もっと大々的に、ファンがオーケストラにお金を落とすための新しい仕組みがあっても良いのではないでしょうか?

また、その効果を高めるために、より一層ファンを増やしていく取り組みも必要ではないでしょうか?

私も一緒に考えていきたいです。

他の業界での取り組み事例

世の中の娯楽が多様化する中で、頭を抱えているのはオーケストラ業界だけではありません。

例えば、野球業界の横浜DeNAベイスターズ

以前は12球団の中で最下位。経営も落ち込んでいたベイスターズですが、様々な取り組みにより見事なV字回復を果たしました。2011年から2016年にかけて、年間観客数は1.7倍ファンクラブ会員はなんと15倍に膨れあがっています

 

そんな横浜DeNAベイスターズのビジネスモデルも『ビジネスモデル2.0図鑑』に掲載されています。

出典:https://note.mu/tck/n/n95812964bcbb

 

既存の熱心な野球ファンだけではなく、仕事帰りの同僚・恋人・家族といったライト層も取り込んだことが観客数増加の大きな要因となったようです。

試合以外のイベントで興味を惹きつけたり、好みの楽しみ方を選べるユニークなシートが用意されていたり、オンラインチケットのデータを活用したマーケティングも行なっています。

 

スポーツと芸術は違う、と言ってしまえばそれまでですが、スタジアムに来てもらうこととホールに来てもらうことに共通する点を見出し、真似できる部分もあるのではないでしょうか。

おわりに

『ビジネスモデル2.0図鑑』の序章にて、「生き残るビジネスモデルには「逆説の構造」がある」と述べられています。

逆説の構造とは、

①起点から定説をとらえて、
②逆説を生み出し、
③起点と逆説を組み合わせる

という独自のフレームワークです。

出典:https://note.mu/tck/n/n95812964bcbb

 

クララ
クララ
さっき登場した横浜DeNAベイスターズで言うと…野球スタジアム(起点)って普通は野球の試合を観戦する場(定説)だよね。でも、このビジネスでは野球をきっかけに楽しむ場(逆説)になっているんだね。

 

目まぐるしく変化している現代社会の中で、これからもオーケストラが現状維持を続けていける保証はありません。

オーケストラに纏わる定説を覆す、ビジネスモデル2.0を考えていきたいですね。

 

それでは♪

参考資料

📖 近藤哲朗『ビジネスモデル2.0図鑑』(KADOKAWA、2018)
📖 大木裕子『オーケストラの経営学』(東洋経済新潮社、2008)
📖 山岸淳子『ドラッカーとオーケストラの組織論』(PHP新書、2013)
📖 畑農敏哉『アマチュアオーケストラに乾杯!:素顔の休日音楽家たち』(NTT出版、2015)
📖 新村昌子『音大生のための就職徹底ガイド ~こんなにある、音楽の知識と経験が生かせる仕事~』(ヤマハミュージックメディア、2011)
📖 読売交響楽団『オーケストラ解体新書』(中央公論新社、2017)
📖 日本オーケストラ連盟『日本のプロフェッショナル・オーケストラ年鑑2017』(2018)

ABOUT ME
明日梨 / Azuri
asunone編集長。大学で芸術工学を専攻し、文化施設と共同でアートマネジメント企画実践に取り組む。2018年に都内のIT企業へ新卒入社後、コンサルタントを経て広報へ。Web制作やイベント企画など、多方面へ活動を広げている。