研究ノート

オーケストラはビジネスか!?大赤字を支える「ワケ」~前編~

Introduction by 明日梨(asunone編集長)

約1年前に『asunone』をオープンして以来、まだまだ未熟なメディアながら多方面から反響をいただきました。

特に、SNSやお問い合わせフォームを通じてメッセージを送ってくださった方々の熱い想いが嬉しくて。そんなみなさんとこれからも繋がっていたいという想いから、asunone編集部というコミュニティを立ち上げました。

私の書いた記事についてフィードバックをいただいたり、「音楽の世界のここが気になる」「こんな企画をやってみたい」と気軽につぶやいてみたり、面白そうな情報を見つけたらシェアしたり。

 

そんなある日、プロオーケストラのライブラリアンとしてお仕事経験のあるYumaさん(@yuma_kobayashi)が、とある機会でプレゼンテーションしたというご自身の資料をシェアしていただきました。

その内容に共感し、私が前回書いた記事とも繋がることから「ぜひ記事化したい」とお願いしたところ、初めての寄稿が実現することに。しかもなんと、前編・後編の2部構成です。

今回はその前編をお楽しみください。

 


 

Text by Yuma(@yuma_kobayashi

こんにちは、asunone編集部に参画させて頂いているYumaと申します。

大学院で主専攻はガチガチの物理系でしたが、副専攻で芸術マネジメントを専攻していたことから、卒業後プロオーケストラのライブラリアンとして1年半修行を積み、現在は一般企業でまた別の視点から修行(?)を積んでいます(笑)

 

自己紹介もほどほどにして本題に。。。今回は「プロオーケストラとその収支構造」というテーマで記事を執筆させて頂くことになりました。前後編に分けて解説していきたいと思いますが、オーケストラのビジネスモデルについての基礎編は前回の明日梨さん(@s2azurin)による記事をご参照ください。

あわせて読みたい
開催すればするほど赤字になる?!オーケストラのビジネスモデルText by 明日梨(@s2azurin) クラシック音楽は、作品によっていろいろな編成で演奏されます。 例えば、ピアニストや...

 

明日梨さんは前回の記事で、こんなことを書いてくれています。

オーケストラの公演にはたくさんの演奏者を必要とするため、チケット代のみで賄うことができない膨大な費用がかかるのです。

オーケストラが演奏会を開催するための費用を見積もると、楽団員だけでなく事務局の人件費はもちろん、演奏会ごとに呼ばれる指揮者やソリスト、エキストラの出演料、演奏会場であるホールの利用料、広報宣伝費、その他雑費を合わせると、1公演あたり約2,000万円の費用がかかることもあります。

一方、コンサートホールの客席数は1,000〜2,000席程度。たとえ満席になったとしても、1,000席のホールだったらチケット価格を2万円、2,000席のホールだったら1万円に設定しなければいけません。

しかし、そんなに高いチケットでは買ってもらえないので、通常のコンサートでは3,000円〜8,000円程度に設定されています。

ということは、演奏会を開催すればするほど赤字になってしまうのです。

そんな赤字を補填するために、外部の主催者に公演を丸ごと買ってもらう依頼公演や、行政からの助成金、スポンサーからの寄付金などによって、オーケストラはなんとか収支を成り立たせている現状です。

 

今回は前回の記事の中でも、

そんな赤字を補填するために、外部の主催者に公演を丸ごと買ってもらう依頼公演や、行政からの助成金、スポンサーからの寄付金などによって、オーケストラはなんとか収支を成り立たせている現状です。

の部分に着目して、解説をしていこうと思います!

 

フィラデルフィア管弦楽団破産の衝撃

と、本題に入る前に、1つ記事を見て欲しいのです。

アメリカの事例ですが、フィラデルフィア管弦楽団は、アメリカの中でも有数のトップクラスのオーケストラの1つとして数えられるオーケストラです。このオーケストラが「破産」に至ったのです。そうです、オーケストラも一歩間違えると破産します

このことを念頭に置いて、以下の記事を読んでみてください!

オーケストラの収入と支出

日本のプロオーケストラの活動内容については、毎年日本オーケストラ連盟という団体が、『日本のプロフェッショナル・オーケストラ年鑑』という年間を発行しており、この年鑑に詳細に報告されています。興味のある方は、無料でダウンロード出来るので、是非ご覧になってください。

 

今回は、福岡を拠点に活動しているプロオーケストラ「九州交響楽団」の2016年度の実績に着目して見方を解説します。

オーケストラの支出

まずは、支出から見ていきましょう。(単位:千JPY)

九州交響楽団の支出(日本のプロフェッショナル・オーケストラ年鑑2017より)

  • 事業費:演奏会を行うために必要なお金です。金額の大きなものでいうと、指揮者・ソリストへのギャラ、ホールを借用するための費用、楽器運搬費、広報費用などが含まれます。
  • 楽団員人件費:オーケストラに所属する音楽家の皆様の給料です。オーケストラに所属する音楽家の皆様は、普通のサラリーマンと同じで月給制です。演奏会が多い月も少ない月も基本的に同じ、深夜の演奏業務には深夜手当、移動に関わる宿泊旅費等という費用もサラリーマン同様に支給されます。特殊なもので言うと、「首席」と呼ばれる各パートのリーダーを務める方には特別な手当てが出たりもします、一般的なサラリーマンでいう所の役職手当のようなものです。ちなみに、これを楽団員数で割ると平均年収が出てきます。。。が、これについての詳細はまた次回解説します。
  • 運営管理費:私がいた事務局員給与、また、法人として運営していくための役員報酬やその他諸々雑費などを含みます。

 

オーケストラも一般の会社と同様「人件費」が最もかかる費用です!

オーケストラの収入

そして、次に収入を見てみます。(単位:千JPY)

九州交響楽団の収入(日本のプロフェッショナル・オーケストラ年鑑2017より)

  • 演奏収入:演奏会を実施することによって得る収入です。大きく分けると2つカテゴリがあるので、もう少し詳しく説明します。
  • 自主公演を行うことによる収入:主催が楽団自身による公演の収入です。いわゆるチケット代金で、私たちがS席5,000円等で演奏会に出向くと、この収入に寄与したことになります。
  • 依頼公演を行うことにより収入:主催が楽団以外の公演による収入です。企業や自治体、その他様々な方面からの依頼があり、楽団が買われる形で依頼公演を実施し、楽団としては主催者のチケットが売れた売れないにかかわらず、「1公演いくら」という形で収入を得るのが一般的です。

 

ここから先は演奏に対する収入ではなく、オーケストラの活動を支援する「寄付金」としての収入です。

  • 民間支援:企業のCSR活動の一環として伝統文化活動の支援が実施されています。九州交響楽団の支援者名簿を見ると、福岡の放送局や大手旅客鉄道会社、ホテルや学習塾等、様々な企業の名前が連なっています。これら支援している企業の企業名は、ホームページや演奏会のプログラム、場合によってはチラシ等にも掲載されており、企業のPR活動の一環にもなります。
  • 公的支援:地方自治体並びに国(=文化庁)からの支援金になります。何故、地方自治体がオーケストラを支援するのか・・・そのワケは後編で・・・

 

収入の円グラフを見ると、演奏収入と支援(=寄付金)の収入が同じくらい、寧ろ支援の収入の方が多いくらいですね!?!?

例えば、九州交響楽団の場合、公的支援(この場合は福岡県・福岡市等)の支援が打ち切られるとどうなるでしょうか!?そうです、オーケストラに所属する音楽家の方のお給料が払えなくなってしまうのです!

日本のオーケストラの収支構造

さて、ここまでは、九州交響楽団の収支構造を例にそれぞれの項目解説、及びそれぞれのポイントを解説していきました。収入と支出を絡めてこれから解説していきたいポイントは1つ、

「オーケストラは自身で公演を行うことによる収入だけでは成り立たず、何らかの支援を得ることにより活動を行っている」

ということです。日本のオーケストラは、この支援金のもらい方にいくつかの形があり、それぞれざっくりと解説していきます。

特定団体支援型

NHK交響楽団の収入(日本のプロフェッショナル・オーケストラ年鑑2017より)

図はNHK交響楽団のグラフです。

収入の約半分を「助成団体」が占めていますね。NHK交響楽団については、「NHK」がこの助成団体にあたります。

日本でこれ以外にこのスタイルをとっている団体には「読売日本交響楽団」があり、読売新聞が助成を行っています。

地方自治体支援型

東京都交響楽団の収入(日本のプロフェッショナル・オーケストラ年鑑2017より)

グラフは東京都交響楽団で、地方自治体(東京都交響楽団の場合は「東京都」)がメインの支援元になります。分類としては先程の九州交響楽団もこの分類で、他に京都市交響楽団、アンサンブル金沢、広島交響楽団等があります。

支援のもらい先が自治体だからという理由もありますが、楽団名に地方の名前を冠していたり、活動内容も音楽教室活動や地域に根差したものが多いのが特徴です。

ハイブリッド型

名古屋フィルハーモニー交響楽団の収入(日本のプロフェッショナル・オーケストラ年鑑2017より)

名古屋フィルハーモニー交響楽団の例ですが、演奏収入、民間支援、公的支援がそれぞれ厳密には均等ではないですがバランスをとりあっている印象を受けます。

自主運営型

東京交響楽団の収入(日本のプロフェッショナル・オーケストラ年鑑2017より)

さて、これまでとは大きく印象が変わるグラフかと思います。東京交響楽団のグラフで、収入の大半が演奏収入になっています。同じ系統のオーケストラでは、東京フィルハーモニー交響楽団や東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団等があります。

オーケストラの実態

さて、日本のオーケストラの収支構造を解説してきましたが、

  • 特定団体
  • 地方自治体
  • 民間企業

 

のいずれかに収入の大部分を頼っているという現状にあるということがわかっていただけたかと思います。九州交響楽団の解説の際にも書きましたが、支援がなくなる=給料不払いにつながる可能性が非常に高いのです。

後編では、何故、支援が必要な状況に日本のオーケストラはあるのか、海外ではどうなのか、オーケストラが今後歩むべき道は・・・?について解説していきたいと思います。後編に向けて、皆さんからの意見、質問もお待ちしています!

参考資料

📖 日本オーケストラ連盟『日本のプロフェッショナル・オーケストラ年鑑 2017』(2018)

 


 

いかがでしたでしょうか。

オーケストラの経営や収支構造についてもっと知りたいという方向けに、編集長の明日梨よりおすすめの文献をご紹介します。

後編もどうぞお楽しみに♩

ABOUT ME
Yuma
九州大学大学院芸術工学府芸術工学専攻修了(非線形物理) ホールマネジメントエンジニア育成プログラム修了 元東京フィルハーモニー交響楽団ライブラリアン 現在は一般企業で就業しながら、細々とクラシック音楽の魅力を伝える活動を実施中~