コラム

ちょっと気をつけるだけで変わる、プログラムノート作成のポイント

Text by Ayako Kato(@akvnimp

演奏者自ら駆け回る、クラシックの自主公演。練習、チラシ、集客、つい手が遠のくプログラムノート。

実はこのプログラムノート、あなたの音楽と観客をつなぐ可能性を秘めています。今回は、忙しい公演準備の最中にちょっと思い出してみてほしい、プログラムノート作成のポイントを紹介していきます。

はじめに:プログラムノートの役目とは?

そもそも、クラシックコンサートにおけるプログラムノートの役目とは一体なんでしょうか。

コンサートへの架け橋

チラシやSNS。あなたのコンサートに興味を抱いた観客は、いろんな疑問や期待を抱きます。

  • 「なぜ、この曲なのか?」
  • 「なぜ、この作曲家なのか?」
  • 「なぜ、このプログラムなのか?」

これらの疑問に応えながら、観客とあなた(の演奏会)を繋ぎうる、架け橋のような存在。それがプログラムノートです。

とりわけ、クラシックにあまり詳しくない客層がターゲットだったり、マイナーな楽曲を取り上げる場合、プログラムノートの出来次第で、観客が出演者の演奏に集中できるかどうかが決まる。……かもしれません。

演奏会で持ち帰ることのできる、唯一の「モノ」

プログラムノートは、観客がその日その会場で一番最初に受け取る「モノ」。そして、コンサート終演後も手元に残りうる、唯一の「モノ」です。

物販を併設するコンサートもありますが、会場に赴くことでしか手に入れられないモノは、プログラムノートのみ。ある意味、究極の限定アイテム、おみやげと言ってもいい。

これは、基本的にその場その瞬間でしか体験できないコンサートにおいて、貴重な性質です。

プログラムを別途販売するコンサートも少なくありません

が、

コンサートも華々しく終演、帰路につく観客の鞄にぐしゃっと詰め込まれ、そのまま自宅のゴミ箱に直行するプログラムノートたち(コピー紙・ホチキス留め)の、なんと多いことか。

心当たりがない者だけ石を投げたまえ、──さあ、ただでさえプラスチックの過剰包装が懸念される我が国ニッポン、今この時代、ただただ捨てられるだけの書類を生産してよいものか。

 

どうせ書くのなら、終演後も「せっかくだから取っておこうかな」「そういえば、こんなコンサート行ったな」と思ってもらえるようなモノを。

何より、手元に残しておいたプログラムノートがきっかけであなたを思い出す、そんなファンが現れるかもしれない。プログラムノートは、今後のあなた自身への架け橋にもなります。

どんなプログラムノートを作る?

では、どんなプログラムノートを作るのか? まず、あなたが企画しているコンサートについて、以下の二つを明確にしてみましょう。

①コンサートのコンセプト・目的
  • コンサートを通して伝えたいメッセージがある
  • コンサートを聴いた観客が、特定の楽器・時代・作曲家・ジャンルに興味を持つようになる
  • コンサートを聴いた観客が、あなたの演奏活動に興味を持つようになる etc…
②ターゲットにしている客層
  • クラシックも何も、そもそも音楽をよく知らない子供向け
  • コアなクラシック・ファン向け
  • 平日の午前、リラックスしたい家庭の人向け etc…

以上を混ぜてコネて、楽曲解説にスポットを当てるのか出演者にスポットを当てるのか読み物として楽しめるようにするのか……など、プログラムノートの具体的な方針を考えます。

参考:実際に執筆したプログラムノート

例として、私が書いたプログラムノートを挙げてみます。

まず、こちらは「モーツァルトへの手紙」と題した、前半にモーツァルト、後半に新作初演を据えた室内楽コンサートのもの。モーツァルトと作品について──「モーツァルトがどんな人物であったか」「どんな背景でこの楽曲を書いたのか」など、スタンダードな楽曲解説をオモテ面に、ウラ面には新作紹介が続きました(データはオモテのみ)。

 

対してこちらは、私個人のリサイタル。前置きの挨拶で私自身の考えを示し、それぞれの楽曲解説では、より主観的な描写を入れました(単純に自分メインの演奏会なので、好き勝手にできたという事情もあります)。

60部刷ったらなかなかの重量に……

 

プログラムノートだからと言って、身構えすぎることはないし、きれいで上手な文章なんかかけなくたって構わない。そのコンサートにおける、演奏者自身の考えや視点が見える方が、読み手に楽しんでもらえるのでは……と思っています。

資料が少ない作曲家・作品の場合

時々いらっしゃる、あまりにも資料が少ない作曲家・作品の場合。無理して楽曲解説を書かない手もありますが、どうしても必要なときは下記をご参考に。

  • 楽譜……譜面はもちろん、楽曲解説や前置き・注釈にヒントが。せっかくなので、英語、がんばりましょう
  • CDのライナーノーツ……サブスクばっかり聴いてないでたまにはCD買いましょう、貴重な資料が山ほど隠れています。ただし出典明記のないものがほとんどなので取扱注意
  • 論文……CiNiiなど、研究者による論文を無料で公開しているサイトもあり
  • 楽譜も解説なし・和文の検索結果はゼロ……英語や各国言語で検索するだけで、思いがけない公開資料に出会うこともあります(研究学会の論文や自筆譜など)。ガンバ英語

 

なにより、「日本語の資料がほとんどない」という事実そのものが、ひとつの情報になります

日本ではまだあまり知られていない作曲家・作品というだけで、人は興味を惹かれるもの。正直なことを書いてしまってもいい。コピペだけはダメ絶対

デザイン・レイアウトを考える

原稿も出来上がり、いよいよ印刷。ここでもちょっとした工夫で、プログラムノートの「モノ」としての完成度が増します。図と共にどうぞ。

見開きA3(片側A4)、ホチキスで平綴じ。
  • 用紙サイズ……片側A5サイズが最小か。A3・B3サイズをペラで渡されると読みづらいので、折り畳むなど
  • 紙の種類……物によっては、手触りや読み心地、気になるガサゴソ音も解消されます
  • 冊子の綴じ方……「ホッチくる」などを用いた中綴じが吉。間違ってもクリップ挟みとかしちゃいけない
  • フォントサイズ・行間……フォントサイズは10ptを切らないこと。字間はデフォルト〜狭め、行間は広めが読みやすい

何はともあれ、読みやすさ最重視で。

コンサート会場内が十分に明るいとは限りません。人によっては、読み返しながら演奏を聴きたい人もいます。

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フライヤーのデータを利用する

ちなみに、プログラムノートをデザインするとき、意外と役に立つのがフライヤー・チラシのデータです。

例えば、タイトルロゴやフォントをプログラムノートに流用するだけで、統一感が出ます。

赤の囲いがロゴ、青の囲いがフォント。

 

上記フライヤーから、ロゴ(赤)とフォント(青)をプログラムノートに流用します。

ちょっとしたことですが、これにより広報〜終演後に至るまで、どんなコンサートだったのかを印象づけることが出来ます。使い回しじゃないです。

印刷は自前? 印刷会社?

いままで私は、自前プリンタによる印刷一択だったのですが、場合によっては印刷会社に頼む手もアリかもしれません。一長一短なのでご一考を。

自前プリンタの場合

メリット

  • めんどうなやり取りを介さず、簡単にできる
  • 失敗してもすぐ直せる

デメリット

  • インク・紙代で意外とコストがかかる
  • 製本も自前で行うので時間と精神の消耗が激しい
  • プロのそれに比べると、印刷・製本が荒くなる

 

印刷業者の場合

メリット

  • 製本・印刷が綺麗にできる
  • 入稿さえすればあとは人任せ

デメリット

  • 入稿〜実物の到着まで時間がかかる
  • 失敗した時の手間がかかる。誤りに気付いたタイミング次第では修正できない
  • 納期によって印刷代が跳ね上がる

ライターに依頼する場合

きちんとギャランティを用意できるのであれば、完成度がダンチになること間違いなしの選択肢です。

きちんと、ギャランティを、用意できるのであれば。

ちょっと知り合いだからとか、仲が良いからとか家族だからとか恋人だからとか、軽い気持ちでお願いすることは絶対にNGです。

そのほか:プログラムノート作成時に気をつけたいこと

文法・構成に気をつける

  • 「?」「!」などの後に空白を置く
  • ですます調・である調を統一する
  • 「・・・」を「……」に、「- -」を「──」に
  • 段組を2-3つに分ける
  • 見出しをつける

以上の点に気をつけるだけでも、格段に読みやすくなります。読みやすさ、大事。

プロフィール・今後の公演予定を記載

文字通り。あなたの演奏を聴いて、今後の演奏会をチェックしたい人、レッスンを頼みたい人が現れるかも。連絡先のほか、QRコードなど、出演者のSNS・WEBサイトのURLを貼っておくのもおすすめ。

公演予定はチラシの挟み込みだけでなく、プログラムノートにもだめ押しで記載しておくのが吉。

プログラムノート執筆者の名前を載せる

あなたが書いたプログラムノートは立派な著作物です。誌上のいずこかで、執筆者名を明らかにしておきましょう。

終演後もデータは取っておく

コンサート終演後も、プログラムノートのデータは取っておくと便利です。次回以降テンプレートとして活用できるのはもちろん、「こんなコンサートをやりましたよ」という実績になります。ちょうどいまこの私のように。

他コンサートのプログラムを参考に

プロ・オーケストラの公演、大手事務所がバックについたアーティストの公演、海外コンサートホールの公演、そしてもちろん、演奏家による自主公演企画……観客としてコンサートにお邪魔する時は、ぜひプログラムを観察してみてください。

 

例えば、プログラムノートの構成といえば、

  • 曲一覧→楽曲(作曲家)解説→出演者プロフィール

という流れが一般的です。

ところが、パリ・オペラ座のプログラム(別売り10€)をめくってみると……

出典:18/05/2019, “LA FLÛTE ENCHANTÉE”, l’Opéra national de Paris

モーツァルトだろうがドニゼッティだろうが、作曲家は最後の出演者一覧(LES ARTISTES)にまとめて掲載されています。モーツァルトも出演アーティストの一人として紹介され、その次に指揮者・演奏家……と続くわけです。

もちろん作曲家は一面扱いですが、アーティストを対等に扱うようで印象的でした。

終わりに:「そもそも、プログラムノートって必要?」

ここまで書いておいてなんですが、プログラムノートを用意しなくてもいい場合もあります。

あなたのコンサートが「カフェで」「気軽な」「MCを交えての」ものだった場合、手元の冊子を凝視してもらうより、出演者の語りに耳を傾け、うなずいてもらうのがしっくり来るかもしれない。

 

また、最近はダウンロード・WEB公開による事前配信も増えてきました。宣伝効果も望める上環境にも優しい。WEB初心者さんは、登録も簡単で長文の読み書きもしやすいnoteあたりがオススメです。

ちなみに、事前配信には私もチャレンジしたことがあります。演奏会直前の擦り切れた精神状態にはとてもスリリングでしたが、それさえ除けばパーフェクト。

だからこそ、これからは当日配るプログラムノートには「モノ」としての価値が求められるのかもしれない。そう考えると、せっかく好き勝手できる自主企画公演、プログラムノートも色々こだわってみたい気持ちになります。

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※2019年9月5日…執筆者の意向により見出しに修正を行いました。

ABOUT ME
加藤 綾子
ヴァイオリニスト。2019年9月よりベルギー・ナミュールの音楽院に在籍予定。